市民ダイアログ2020

市民ダイアログ(前橋)

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動運転(システムとサービスの拡張)では、自動運転に対する社会的受容性の醸成を目的とした取組みとして、群馬県前橋市で「市民ダイアログ」を実施しました。

1.開催趣旨

本年度は2018年度より自動運転の実証実験を実施している群馬県前橋市を対象に、群馬県及び首都圏での新型コロナウイルス感染症拡大と、開催直前に発令された政府の緊急事態宣言を踏まえ、オンライン形式で市民ダイアログを開催しました。
当日は、前橋市民15名と、SIP関係者5名および前橋市の有識者・関係者2名を含む計22名による対話が行われ、前橋市の暮らしや移動に関する現状の課題や、理想の未来像について討議し、自動運転のある社会について意見を出し合いました。

2.開催概要

◆ 日時 2021年1月27日(水) 13:00~16:30

◆ 実施形式 オンラインミーティング

◆ 司会
SIP自動運転 推進委員会構成員/モータージャーナリスト 岩貞るみこ氏

◆ 参加者
群馬大学CRANTS(次世代モビリティ社会実装言及センター)准教授 小木津武樹氏
前橋市役所 政策部 交通政策課 地域交通推進室 副主幹 南雲貞人氏
SIP自動運転サービス実装推進WG主査 大口敬氏
SIP自動運転・サブ・プログラムディレクター 有本建男氏
SIP自動運転 推進委員会構成員/国際自動車ジャーナリスト 清水和夫氏
SIP自動運転 推進委員会構成員(司会兼) 岩貞るみこ氏
SIP自動運転 推進委員会構成員 石井昌道氏
前橋市民15名

3.開催レポート

今回の市民ダイアログには、SIP関係者を除いて計15名の市民の方に参加頂きました(Aチーム8名、Bチーム7名)。メンバー構成は、高校生、大学生、車いすユーザー、商工業者、農業者、シニア層などの各層にわたりました。また、居住地の観点でも、中心市街地在住者、郊外在住者、市外からの通勤者など、幅広い立場の方の意見を伺うことができました。

テーマ1:日常生活での移動と、困りごと・将来の心配や、移動に関する要望は何か?

「老夫婦2人で暮らしており、週に数回近所のスーパーに出かける。自転車が得意でなく、基本的に自家用車を使う。徒歩5分ほどの距離のところにバス停があるが、本数が少なく、便利でない。また、バスを待っている間、雨風にさらされるのは、80歳の身にはつらい。」
「20年後に果たして運転できているか、今から心配である。住まいのある富士見地区は(赤城山麓で)環境が良い為、移住してくる人も多く、標高の高いところにも人が住んでいる。が、(交通の便が悪い為)もし免許返納すると途端に生活が不便になり困っている人、これからどうするか悩んでいる人も多い。」
「群馬県や前橋市は、今日の前橋市役所の講演内容でも触れられていた通り、自家用車保有率が高く、好きなときに好きなところに行けるライフスタイルが当たり前になっている為、バス等の公共交通への切り替え・誘導が困難である。一方、高齢者になってくるとバスへの依存度が必然的に高くなるという構造的に難しい課題を抱えている。」
「通学で上毛電鉄を使っている。本数が少なく、だいたい30分に1本の割合。1本乗り遅れるだけで遅刻になり、毎日苦労している。」
「自営業の為、通勤で自家用車を使うことはない。上の子供2人は独立しており手がかからないが、下の子供(中学生)のクラブ活動の送迎で、県内外あらゆるところに送迎する負担が大きい。自分が元気なうちはいいが、もし病気で倒れたりしたらどうなるのか不安に思うことがある。」

テーマ2:日常生活や移動の面で、より住みやすい前橋市とは?また、自動運転技術が導入されると日常生活のどんな面で役立ちそうか?逆に不安や心配な点は何か?

「自分に適した移動手段が選べることが、住みやすい街だと思う。また、自動運転技術は安全で大丈夫ということを市民に周知することも大事。自動運転の実証実験は、都合が合えばぜひ利用してみたい。これまでは実証実験をやっていることすら知らなかった。」
「徒歩か、自転車で移動できる範囲で、日常生活が事足りること、そして公共交通でいろんなところにアクセスでき、また、その利便性が高いことが住みやすい街につながるのではないか。」
「自分が住んでいる郊外は、これからインフラの維持が厳しくなってくる。市がデジタルフリーパスのようなものを提供してくれているが、普段は100%自家用車で移動している為、使う機会がない。自動運転が一刻も早く実用化され、自分の車の機能として備わってほしいが、最初のうちは高価で手が届かないのだろうか。庶民が購入できるような価格ならば、自動運転の導入は大賛成である。」
「むしろ自動運転技術を導入していかなくてはいけない社会になってきていると感じる。化石燃料を使う車が禁止されるようになってきたり、コンパクトシティ化が進められようとしていたりして、自家用車の保有・使用を前提とした生活から、歩いて事足りる生活へのシフトを迫られているようにも感じる。自分だけが好きなように移動できる社会は、全体としてはかえって非効率な社会なのかもしれない。これから自動運転の必然性は高まっていくと思うので、今のうちからその課題に向き合って取り組んでいる前橋市にとって、今後強みになっていくと思う」

4.シンポジウムの様子

  • 【実施風景】

  • 【グラフィックレコーディング】

地域自動運転サミット

1.開催趣旨

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動運転(システムとサービスの拡張)では、地域の社会的課題解決や、持続可能な公共交通システムの実現に向け、自動運転に期待される役割や現状の課題を、実証実験に取り組んでいる自治体や事業者により共有・討議する場として、地域自動運転サミットを開催しました。

2.開催概要

◆ 日時 2021年3月25日(木) 14:50~17:30

◆ 会場 TOC有明(東京都江東区)

◆ 実施形式
オンラインとリアルのハイブリッド形式でのディスカッション
・各地域からの登壇者:web会議システムにてリモート参加
・各事業者からの登壇者、SIP関係者、一般の観覧者:TOC有明にてリアル参加
・オンラインの観覧者:YouTube Liveでのオンライン視聴

◆ 登壇者

開会挨拶

  • 内閣府:三ッ林副大臣
  • 経済産業省:江島副大臣
  • 国土交通省:大西副大臣(渡辺官房審議官による代読)

基調講演

  • SIP-adus 推進委員会 プログラムディレクター:葛巻 清吾

各地域紹介

  • 島根県飯南町:塚原 隆昭町長
  • 福井県永平寺町:河合 永充町長
  • 秋田県上小阿仁村:小林 悦次村長
  • 沖縄県北谷町:野国 昌春町長
  • 滋賀県東近江市:小椋 正清市長

パネルディスカッション第1部 地域の課題解決

  • 島根県飯南町 道の駅「赤来高原」駅長:木村 和子様、地域振興課長:長島 淳二様
  • 福井県永平寺町 総合政策課:山村 徹様
  • 秋田県上小阿仁村 NPO法人 上小阿仁村移送サービス協会代表:萩野 芳紀様、
    地元ボランティア(自動運転 運転手):石上 久美子様
  • 沖縄県北谷町 企画財政課長:仲松 明様
  • 滋賀県東近江市 道の駅「奥永源寺 渓流の里」駅長:小門 信也様

パネルディスカッション第2部 次世代公共交通システム

  • 西日本鉄道株式会社 未来モビリティ部 企画開発課長:日高 悟様
  • みちのりHD ディレクター:浅井 康太様
  • 株式会社ZMP 取締役:西村 明浩様
  • BOLDLY株式会社 代表取締役社長兼CEO:佐治 友基様
  • 株式会社ティアフォー 創業者兼最高技術責任者(CTO):加藤 真平様

閉会挨拶

  • SIP-adus 推進委員会 サブ・プログラムディレクター:有本 建男氏

◆ 司会 SIP-adus 推進委員会 構成員:岩貞 るみこ氏

◆ モデレーター
パネルディスカッション第1部 SIP-adus 推進委員会 構成員:岩貞 るみこ氏
パネルディスカッション第2部 SIP-adus 推進委員会 構成員:清水 和夫氏

3.開催レポート

【パネルディスカッション概要】

第1部:地域の課題解決での主なQ&A

Q:
各地域のお話からは、いかにサステナブルにサービスを続けるか、収支を成り立たせるかといった点が共通の課題と言えると思う。同時に、地域に受け入れてもらうための工夫も色々とされている。また、「移動だけではない活用方法」という観点も面白いと感じた。子どもたちに乗車してもらったところもあるということだが、その様子について教えてほしい。また、子どもたちの反応はどうだったか。
A1:
子どもたちにはこちらからお願いして乗ってもらった。本来は高齢者等に載って頂くことが第一という面もあるが、それは前提として、地域の大人たちが先進的かつ大きな仕事をしているということを子どもたちに教えてあげたいという思いから、子どもたちに乗ってもらった。子どもたちの反応は良かった。自動運転車両に乗る機会はなかなかないし、大人たちが一つのことに一生懸命に取り組む様子を見せてあげられたという点も良かったと思う。
A2:
走路の中央付近に小学校があり、児童の下校を自動運転で行う試みを実施中。子どもたちに先端技術を体験して夢を持ってほしいという思いに加え、行政としては、少人数かつ長距離の下校が心配だという保護者の声も捉え、下校をより安全に行う目的で積極的に実施している。子どもたちの反応について、以前のバス下校に比べて時間がかかって遊ぶ時間が減るという声もあったが、ゆっくり喋りながら下校するのが楽しいという反応も多く、嬉しく思っている。
Q:
行政や運行事業者と上手くコミュニケーションをとる必要があると思うが、関係性はどう保つか。実証実験は誰が主体となって行うのか。
A:
オペレーターやドライバーは地域の方々にお願いし、当初は「そんなこと本当にできるのかな」と言っていた方々も、日が経つにつれて「自分達にもできる」という実感を深めていた。今後に向けて力強い仲間ができ、行政と地域住民が一体となって取り組める体制ができたと思っている。
Q:
各自治体の紹介の中で「人材育成に役立った」との言及があったが、具体的にはどういうことか。
A:
実証実験事業のなかで、地域の小学校6年生に参加してもらって「ワールドカフェ」というディスカッションを実施し、今後自動運転を継続的に行っていくための在り方について考えてもらった。「低速の自動運転車両と公道を高速で走る車両の両方が存在することやそのバランスについて、大人たちが受け容れていく社会になれば良い」という意見をもらい、大変驚いた。技術の前進も重要だが、地域に合ったルールや人の意識を作っていくことが重要で、我々の役目だと思った。
Q:
無人の良さと有人の良さ、それぞれがあると思う。各自治体の紹介の中で「困り事」への言及はあまりなかったが、実際に運営する場合には様々なご苦労があると思う。無人・有人の場合を含め、困り事について教えてほしい。
A:
乗客をいかに車両に案内して正しく乗ってもらうかという手順について、苦労、工夫している。どこで待てばよいか、どう乗ればよいかについて、きちんと整理していく必要がある。
Q:
従来人が行っていたサービスが無人運転で失われてしまうので、それに代わるものをどう整えるかということか。
A:
人それぞれ反応やニーズが異なるので、それに対してどうアプローチするかが課題。現時点では、遠隔操作室のカメラと音声マイクで個別対応することになっているが、その負担をシステムに代えていくことは必要だと認識している。

第2部:次世代公共交通システムでの主なQ&A

Q:
自動運転バスを体験した乗客からは、乗り心地に対する高い評価が得られた一方で、無人のオペレーションでは万一の際に不安という声が多かったようだが?
A:
有人だと安心感が高まるという声については、車内で多くの乗客から伺ったし、以前別の実証実験を実施した際にも多く聞かれた。根強いニーズがあるように感じている。
Q:
自動運転の認知・判断に関する技術領域で、どのあたりに難しさを感じているか?
A:
認知・判断に関するAIの技術開発は大変だが、そのうち必ずできる。課題は、いかに早く安くできるかということ。実用化に向け、お金も時間もいくらでもかけていいわけではない。実証実験も非常にコストがかかるので、いかに効率よくまわすかが課題である。
Q:
安全性をどう評価していくか、リアルな環境での検証だけでなくと、サイバー空間でのシミュレーション活用も大事になるか?
A:
その通り。意外に思われるかもしれないが、自動運転の開発プロセスにおける大半のコスト・人・時間は、AIの開発よりも、安全性の検証に費やされるといっても過言ではない。効率的な開発の為には、ちゃんと基準を決め、実世界を走らせるだけなく、シミュレーションを活用して検証プロセスを自動化することが、非常に重要である。
Q:
先ほど、自動運転バスの運行を始めた後、市民の理解が得られ、違法駐車がなくなったという話があった。市民が受け入れてくれる姿勢に転じ、非常にいい関係が出来上がったように思える。
A:
市民が何のための自動運転かをくみとり、また将来的に自分自身にも役立つことを理解してくれ、協力関係ができあがった。技術の進化よりも、市民の進化のほうが早かったと言える。
導入当初は違和感を持たれ敬遠されても、運用を継続する中で徐々に浸透し、地域の子供たちから声をかけてくれるようになった。使われて実際に役に立ちながら、地域の一員になっていけることを痛感する。
また、マスコミュニケーションだけでは理解が得られないので、町単位・工区単位などの小さなかたまりに対象を小分けして対話を行い、理解を得るように努めている。
とある地域で昨年取り組んだ実証実験では、バスの車体をお魚マークでラッピングし、子供たちに自動運転バスの目印として教えたところ、町で見かけたときに指をさして声をあげてくれるようになった。彼らが自動運転ネイティブの第一世代として、若者・大人に育つ過程で当たり前のものとして認知してくれると、より一層の受容性と社会変革が期待できるのではと思う。

4.当日の模様

  • 【グラフィックレコーディング】
    討議の内容を可視化して記録することを目的に、“グラフィックレコーディング”を活用しました。